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がん抑制遺伝子(がんよくせいいでんし)とは、がんを抑制しているタンパク質(がん抑制タンパク質)をコードする遺伝子である。特に有名ながん抑制遺伝子として、p53RbBRCA1などが挙げられる。2倍体の細胞において2つのがん抑制遺伝子両方が損傷することなどにより、結果としてがん抑制タンパク質が作られなくなったり、損傷遺伝子からの異常ながん抑制タンパク質が正常がん抑制タンパク質の機能を阻害すると、組織特異的にがん化が起きると考えられている。

 

今までに、十数以上のがん抑制遺伝子が知られており、p53(大腸がん、乳がんなど)、Rb(網膜芽細胞腫、骨肉腫など)、BRCA1(家族性乳がん、子宮がん)、MSH2(遺伝性大腸がん)はそのうちの主要な一部である。各がん抑制遺伝子はカッコ内のがんの責任(原因)遺伝子である場合が多い。各がん抑制タンパク質の機能も細胞周期チェックポイント制御、転写因子の制御、転写、DNA修復など多岐にわたっている。 これらのがん抑制遺伝子群とそれらの具体的な諸機能は、なぜがんが発症するかという疑問に対してその分子機構を説明していると考えられている。

 

 

具体例

p53遺伝子を破壊したノックアウトマウスは、ほぼ正常に発生するにもかかわらず、成長に伴って多くの組織で自発性がんを発症することが分かり、がん抑制遺伝子のがん発生における重要性が確認された。(Nature. 1992, 356, 215-221) また、ヒトの腫瘍の約~50%に変異が認められるため、少なくとも現在のところ、もっとも有名で重要視されるがん抑制遺伝子である。p53の機能は、きわめて多岐にわたるが、G1/S細胞周期チェックポイント制御機能、アポトーシス誘導機能がよく知られている。

 

RbRetinoblastoma(網膜芽細胞腫)感受性遺伝子を当該分野において意味する。この2つの遺伝子の片方が遺伝的に損傷して片方しか機能していない状況で(ヘテロ接合性の消失という)、第二の損傷が残りの正常遺伝子に起きたときに、機能できるRbたんぱく質が初めて消失し、網膜芽細胞腫が起きるという2ヒット理論が提出され、遺伝学的に証明され、Rb遺伝子が同定された。(Annu Rev Genet. 2000, 34, 1-19 このがん抑制遺伝子の発見は、それまでのがん遺伝子中心のがん研究が、がん抑制遺伝子の中心の研究に大きく変化する転換のひとつの主因になったといわれている。Rbのほかにp107p130のホモログが存在し、これらの3重のノックアウト細胞は(p53が存在しても)G1/S細胞周期チェックポイント制御機能をクリアーに消失する。

 

MSH2たんぱく質はDNAミスマッチ修復においてDNAミスマッチを検出するたんぱく質であり、大腸菌のMutSに相同性がある。MSH2たんぱく質はDNAミスマッチに依存して細胞周期もコントロールする。MSHMutS homologueMutSMutator Small subunitを意味する。生物種を超えて大腸菌までに保存された蛋白質である面で注目される。MSH2を破壊したノックアウトマウスはがんを発症することから、MSH2はがん抑制遺伝子であると確認されている。MSH2がん抑制遺伝子は、ヒトのがんがDNA修復機構の異常や細胞周期コントロールの異常で起き得ることを示唆し、がん発症の分子機構の理解に大きなヒントを与えた。

(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)

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